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バイオとITの研究者の出会いと共創 - さくらじまハウス2022-

はじめまして、COGNANOのIT部門でプロダクトマネージャーを担当しているsonodです。
2022年10月28日から29日の2日間にかけて、さくらじまハウス2022が鹿児島で開催されました。

www.sakurajima-house.tech

2日間で、スピーカーとして24名、参加者は延べ約200名で、参加可能枠に収まらないほどのイベントになりました。このイベントの中で、COGNANOは、最終日の29日の最後のセッションで、代表の伊村さんCTOのまつもとりーさん、モデレーターに株式会社マイナビの油井さんを迎え登壇しました。

今回は、このセッションのレポートをします。ITの業界で働かれている方々に、バイオとITが越境し融合した新たな挑戦について興味を持って頂くきっかけになると嬉しいです。

COGNANOのトークセッション

左から、まつもとりーさん、伊村さん、油井さん

セッションタイトルは「技術は技術で終わらない、研究者の邂逅・見据える未来」です。

伊村さんとまつもとりーさんの自己紹介

最初は、登壇者の自己紹介から始まりました。油井さんの自己紹介が終わった後、CTOのまつもとりーさんの自己紹介があり、さくらインターネットで研究者をやりながら、COGNANOでは経営者でもあり、様々な経歴があることに対して会場の方々が興味を持っているように感じました。続いて、代表の伊村さんからの自己紹介は少し不思議な空気感でした。なぜなら、伊村さんはバイオの専門家で、以前は医者として仕事をされており、今はバイオスタートアップの社長であるため、その経歴がITのイベントで聴き馴染みのないものだったからです。しかし、油井さんが「伊村先生」と呼んでいたことに対し、伊村さんが「医者をやっていたこともあり、先生と呼んでもらえてると思うのですが、できれば、伊村さんでお願いします」と言ったことで、会場の空気も和らぎ、伊村さんの人柄が会場に伝わったようでした。

COGNANOの事業内容の説明

自己紹介の次は事業内容の説明に移り、COGNANOにとってアルパカが重要な役割を担っていることや、そのためにアルパカを飼育しているというお話をされました。医師として勤めていた経歴にも驚きがありましたが、会場の方々はアルパカを飼っている話に興味が惹かれているように感じました。そこからアルパカの話がしばらく続き、日本では色々な規制があり購入が難しく、アメリカのオレゴンまで購入しに行って、強面の人たちに交渉して18頭空輸してきた話で笑いが起こりました。しかし、アルパカを使った実験がなかなかうまく行かず、暗黒期に入った苦労話をされていました。バイオやアルパカの話など、IT業界ではめったに聞くことのない話を次々とされており、会場で聞くのは新鮮でした。

COGNANOが何を解決するどういうプロダクトを作っているのかという問いに対して、伊村さんは「ビジネスとしては、人類が今までデザインできなかったような薬を作ります。しかし、ビジョンとしては、人間や生き物を一つのシステムとして捉えて理解する。元気な時も病気な時もそれをシステムの問題として捉える。」と答えていました。続けて、今何ができていなくて、これができると何ができるのかというと問いに対して、「日々生きてる時ってシステムが動いていて、何も努力しなくても動いている。お腹が減れば何かを食べるといったように。そのシステムは、ブラックボックス化されている。こういったものを情報化して、自分の人生をログで把握できるようになる。生まれて生きて死んでいくということを自分の思いや概念だけじゃなくて情報として把握したい。」と話されていました。

僕は、人がまだまだブラックボックスで解明されていないことが多いという話は以前聞いていたのですが、これだけ時代も進み、IT化も進んできた中でも人のことはブラックボックスと言われるほど解明されていないことに驚いた記憶があります。また、この話の中で「人をシステムとして捉えてログで把握する」といったITに通じる表現をしたことが、とても興味深いと思いました。

プロダクトのビジョンの話に続けて、乳癌のマーカーの話になりました。マーカーとは、癌を診断するために、癌細胞の位置を特定するものです。バイオの業界では、このマーカーを用いて診断することが主流になっているそうです。その癌の中でも、人間が未だにマーカーを発見できていないトリプルネガティブ乳癌(TNBC)と呼ばれる乳癌があります。COGNANOは、そのTNBCに対して有効なマーカーを見つけ出したそうです。その時に、伊村さんは、「マーカーを見つけるのを人間がやっているからできないのではないかと思ってですね。これを、データから機械で深掘りする事によって、非常に深いところから抽出する事ができると考え、やってみたら上手く行けた。そこで、バイオデータがベースにはなるが、機械でサポートされなかったら結局わからないということをしみじみと悟った」と話されていました。

伊村さんは当たり前のことのようにこの話をされましたが、人類がこれまで発見できなかったTNBCのマーカーを発見したことは、今後多くの方の命を救える可能性があると思います。僕はもともと社会に対して貢献していきたいという気持ちがあったため、このようなプロジェクトに直接関われることが非常に嬉しく感じました。

このTNBCのマーカーは、実用化に向けてプロダクトを進めています。今後、乳癌以外の癌への展開も考えているので、引き続きCOGNANOをウォッチしていてもらえればと思います。

TNBCについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

www.cognano.co.jp

パネルトークや質疑応答

パネルトークの中から、僕が印象に残っているいくつかをピックアップしてお伝えします。

  • なぜ、スタートアップや経営・組織に興味関心が向いているのか

「なぜ、スタートアップや経営・組織に興味関心が向いているのか」という質問に対し、CTOのまつもとりーさんが、「今まで沢山勉強してコードを書いたり論文を書いたりしてきた。OSSに貢献したり、作ったりして楽しかったし、使ってくれた人から声をかけてもらったりフィードバックをもらえることも多かった。しかし、それが直接的に社会や誰かの役に立っているかというと遠い距離を感じていた。1人で研究できることにも限界があるので、専門性の高い活動をチームや組織で取り組むことでその価値を最大化し、自分達の活動がもっと社会と近くなるように研究開発成果を世の中に届けたいと思い始めた。それをここ数年の目標にしている。」とコメントしました。僕自身も開発などを通じてサービスを世の中に出してはきましたが、これで社会に貢献できているのかということを考えることもありました。そのため、この思いには大変共感しました。

また、プロダクトマネージャー目線で見たときにも、1人でやる事と、チームや組織としての取り組みのバランスは常に意識する必要があります。プロダクトマネージャーは、ビジネスやUX、IT技術と言った広い範囲での知識が要求されます。しかし、1人で全てを行うことはできません。そのため、各スペシャリストが方向性に迷わないように、方向性を示しながら協力していけるチーム作りをしていくことが多いので、チームや組織で取り組むことでその価値を最大化するという点についても心に留めておきたいと思いました。

  • 伊村さんとまつもとりーさんの出会いはなんだったのか

「伊村さんとまつもとりーさんの出会いはなんだったのか」という質問に対し、伊村さんから「ITのことを全くわからなかったが、闇雲にGmailでまつもとりーさんにメールしたのが最初です」という話をされていました。二人の出会いは、伊村さんからの突然のメールだったようです。しかし、コロナ渦中にあったそのメールは、売れそうだからコロナ検査デバイスを作るんだ!という風に聞こえてしまい、まつもとりーさんはすぐには信用できなかったそうです。ところが、伊村さんと会話をして行くうち、まつもとりーさんは「当時バイオのことは詳しくわからなかったが、伊村さんには、自分が質問したバイオのことは何でも分かりやすく納得できるレベルまで答えられる医学知識の深さがあった。そこから伊村さんを信用したと仮定すると、これから作ろうとしていたプロダクトの話も正しく感じてきたし、今まで人類が見つける事の出来なったTNBCのマーカーを、しっかりとデータがある状態で1年くらいで見つけてきた事実もあった。だから、細かいバイオが本当かどうかはわからなかったとしても、そこは伊村さんを信じるべきと思ったときに、そこから描いていた絵というのが、全部正しいいし、それが実現できると世界が変わりそうだと、ストーリーとして腑に落ちた」と話していました。これは後日、伊村さんが話していたことなのですが、まつもとりーさんも15年前からインターネットやシステムを生命のように捉えて研究してきた背景があり、イメージとしては「ウェブ認識と、生命システム研究の対比で、二人が反対側から歩いてきて、パンデミックの中で出会った」と言っていました。

これは、僕自身もとても感じていた話でした。僕がまつもとりーさんから話を聞いてCOGNANOへの参加を決めたときに、これが実現すると社会をよりよい方向に変えていけるという夢と期待を感じました。この気持ちは、僕がITエンジニアを始めたときに持っていたもので、医療などを通した社会貢献をしたいと思っていたところに、がっちりとはまった感覚でもあります。加えて、伊村さんから、COGNANOが保有するデータの価値や、目指しているストーリーを知ることで、ますます共感したことを覚えています。

  • 別のパンデミックがあるかもしれませんが、日本はどんな準備ができるでしょうか。

「別のパンデミックがあるかもしれませんが、日本はどんな準備ができるでしょうか。」という質問に対し、伊村さんから「うちが準備できることだけ話します。ウイルスはどんどん変化していってますが、変化に対応できる創薬システムは今まで存在していないんです。だから、場当たり的な対応で薬を作ってきました。それを情報化できたら予測とか分析したりでトラックできるようになります。新しい株が出てもずっとシーケンシャルについていくトラッキングシステムを開発しています。」と回答されました。ここで、まつもとりーさんから「こう聞くと色々やれてる人がいて、その中の一つがCOGNANOのように聞こえるが、変異についていけているのは世界でもCOGNANOだけだったりする。その現実を目の当たりにしたときに、すごさというのを理解できる。」と話されていました。

この話は、COGNANOの重要な取り組みの1つになります。COGNANOでは、保有する膨大かつ高品質な抗体データに対して機械学習を適用することにより、ウイルスの変異をトラッキングできるシステムを開発しています。ウイルスの変異追跡とトラッキングについて詳しく知りたい方は、こちらのブログをご覧ください。

www.cognano.co.jp

また、抗体についての説明と、機械学習については、こちらのブログをご覧ください。

www.cognano.co.jp

セッション全体を通して

伊村さんとまつもとりーさんが二人とも強調して述べていたことは、人も生物である限りシステムであるという視点です。そもそも生命は未解明な現象が潜んでいるシステムで動いていて、知らぬ間に産まれて生きて死んでいきます。人体もシステムなので、設計図であるゲノムを解読すれば、多くの生命現象を理解できると思われていましたが、期待したほどの理解には至っていません。ここでのまつもとりーさんの「アナロジー的には、コンピューターで例えるとゲノムはカーネルソースコードと考えられる。カーネルソースコードを理解したからと言って、多層的かつ複雑に構成されているWebアプリケーションやシステムの挙動まで理解できないことに似ている」という追加コメントがあり、この解説を聞けば、ITエンジニア目線でとてもわかりやすいと思いました。

これ以外にも様々な質問やトークがありましたが、それはいずれ動画で公開できればと思っています。

まとめ

今回は、さくらじまハウス2022の参加レポートを書きました。このイベントを通して、生命の分子情報を共通言語とし、テクノロジーを介してバイオとITが越境し、融合していくことへの納得感や、COGNANOがやろうとしている事の革新性と面白さが伝わっていると嬉しいです。僕自身、改めて聞いていても、伊村さんとまつもとりーさんの経営や組織についての話を聞けて学びになりました。また、人も生物である限りシステムでありコンピューターに置き換えた考え方もできるという話を聞けたのは大変面白かったです。

これから我々は、今回お話ししたTNBCのマーカーやウイルスの変異をトラッキングできるシステムなどのプロジェクトを通して、世の中のすべての人たちがウェルビーイングに暮らせる世界を実現するために活動をしていきます。これからのCOGNANOの活動にご期待ください。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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