CogNano Tech Blog

バイオ情報をヘルスコントロールへと繋ぐ

あるかないかわからないモノ:バイオ限界(後編)

COGNANO テックブログA, No.6

 

COGNANOのいむらです。がんの話を続けます。これは「因果関係という呪い」を解くおはなしです、、、

 

バイオは「物質を見つける」主義で、手っとり早く見つけるには遺伝子工学が向いているのですが、意外にも「がんの原因遺伝子」を絞りきれない、、、、までが前編でした。

 

ダークマター

「宇宙に充満するはずのダークマターを探す」みたいな話です。物理学者に尋ねれば、「ダークマターがないと宇宙が説明できんのだよ、見たことないけど」と言うのでしょうね。それに似ています。がん細胞にもキーがあるはずなんですが、遺伝子を調べても、はっきりした原因がなかなか見つからない。研究が進み、たくさんの「がん化のアクセル」「ガン化のブレーキ」はわかってきました。しかしよく考えると、自然の経緯でがんになるところを誰も見たことがないのです。

 

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https://wise2.ipac.caltech.edu/staff/jarrett/2mass/XSCz/index.html

NASAダークマター探索ページ

 

時・空のあいまいな系列、因果関係という迷路、仮説ドリブンのデータ取得、、、、から離れて、冷静になる必要があるのではないでしょうか。

 

違う景色を見るには

原因を探す、という思考をやめよう、というのが、ぼくたちがたどり着いた方法です。悪い細胞、良い細胞というキャラクター設定も捨てよう。バイオの旅で背負って来たリュックサックを道端において、いつもと違う景色を見よう。

 

がん細胞株というマテリアルがあります。がん患者の手術標本から樹立された無限増殖細胞で、実験室で培養できます。70年ほど前に子宮ガン組織から樹立されたHeLa細胞に始まり、現在では何千種類という株が世界中で培養されています。がん組織からスピンオフした細胞だから、がんの性質を引き擦っているに違いない。バイオ実験室で手軽に扱えることから、ずっと主役級のマテリアルでした。けれども、これを調べたらがんが分かるのかどうか、じつは保証がありません。元のがん細胞からは、とんでもなく違うモノになっている可能性もあります。

 

「時代遅れかもしれない?細胞株」作戦

作戦はこうです。過剰な期待をせず、がん細胞株だけじゃなく、正常細胞株も合わせて、すべての構成因子に、抗体というタグをもって淡々とリストする巨大な図書館(ビッグライブラリ)を作り、優秀な司書が索引を作ってくれれば、がんに関連が強いタグがたくさん見つかるのではないでしょうか。ノイズやフェイクもたくさん混入しているけれど、確からしい情報を掘り出してくれる有能な司書がいれば、、、、そうなると抗体図書館のサイズは大きいほど良いし、司書のサーベイ能力は批判的であるほど良い。また、索引は遺伝子だけでないほうがよい。タンパク、糖鎖、脂質、全てのジャンルの情報があってもよい。抗体を使った巨大な図書館建築はお家芸です。COGNANOは細胞の特徴を広範囲に記載した1億冊(=クローン)の書物を並べることができます。一方、スーパー司書は、ジャンクやポルノを厳しい目で排除してほしい一方で、些細な項目や未知のタグを、「今わからないから」という理由で安易に捨てるべきではないでしょう。理由に関わらず、がんとリンクが多い順に、ディレクトリを作成してくれたら、、、このセンスは、検索エンジンに似ているのではないでしょうか?

 

このようにして、新しいリスト作成を進めていきました。なにが原因でがんになるのか、という視点は考慮していませんし、リンク強度が高ければ価値があるけれど、低くてもウェルカムですし、無関係なタグも同じくらい重要です。成果はまだ公表していませんが、個人的には、むかし医学教育で学んだ「がん」のイメージが、ずいぶん変わりました。この辺りから、ぼくたちは、「ヒトの頭で考えるような因果関係に縛られない」深層学習に惹きつけられていったと思います。

 

悲しい記憶

100年前の医者は梅毒、マラリア結核などの感染症と戦っていました。しかしぼくの学生時代には、メインテーマはがんと成人病になっていました。組織標本を顕微鏡で学び、病名を覚え、試験を受けます。医師免許をもらうと末期癌の方の主治医をして、、、、と対がん戦闘員として養成された時代です。これは、初年兵がいきなり砲弾飛び交う最前線に放り込まれたようなもので、忘れることができない記憶です。

 

この30〜40年は、バイオ=分子細胞生物学が、病気という難問を解決してくれると信じた時代でした。いまだにアメリカではバイオへの投資熱は凄まじく、じっさい大きな成果を挙げたと言えます。しかし多くの課題は未解決です。どんなアプローチも認識の限界に突き当たります。繰り返しですが、限界の構造は2つ、

 

  1. ヒトがまるっと認識するには、生物が持つ情報スケールが大きすぎる上、そもそも情報化できていない
  2. ヒトが想定できるような「因果関係」に収束しない可能性がある

 

です。いまこれがCOGNANOが突破すべきテーマになっています。ということは、、、、結論として、ぼくはアルパカとアルゴリズムに仕える作業員になるということですね。長年研究してきて、やっと自分の仕事が見つかりました。ただ少し急いだ方がいいですね、、、

 

パンデミックの話に戻ります。オミクロン株が、またしてもどんどん変異し、世界中ほぼ全ての抗体は活性を失いました。ウイルスの回避能力に降伏した格好です。しかしCOGNANOの抗体は効力を失っていません。バイオ担当のまえださんは、この件に掛り切りで、ちょっと手が離せないかんじです。彼の頑張りでまもなく「オミクロン変異にも耐える」論文が受理される見込みなので、改めてツイッターなどでおしらせします。

 

ですので、次回のブログは、まつもとりーさんにリレーできるといいな、と思ってます、、、、スケジュールを聞いてみますね、ではでは!

 

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アルパカの家族